Yin Year、デザイナー池手晴紀さん、平澤究さんインタビュー
- hauska-tavata
- 1 日前
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展示会「Ramble 2025」でお会いしたアイウェアブランド「Yin Year(インイヤー)」。「人間性を照らすもの。単なる飾りではなく、あなた自身の一部となるもの。あなたの象徴、形見となり、継承されるもの—。」そんなコンセプトのもと、フレームカラーは「黒」にこだわりを持ち、素材は主にセルロイドを使用しているアイウェアブランド。 今回、Yin Yearのデザイナーである池手晴紀さんと平澤究さんに、ブランド立ち上げの経緯、黒のフレームカラーへのこだわり、セルロイド素材を使用する背景、そして制作される洗練された映像のインスピレーションについて、貴重なお話を伺うことができた。(下:Yin Year 「(Why not join us on this journey?)」より。モデルYY C2-22を着用。)

ー ブランド名である「Yin Year(インイヤー)」にはどのような意味が込められているのでしょうか?
池手:ブランドネームであるYin Yearは、それぞれ「Yin=影」と「in year=年を重ねる」という意味を持って、ブランドの礎ともいえるこの2つの言葉を組み合わせたものです。「まるで影のようにあなたに寄り添い、ともに年を重ねてほしい」という想いを込めて名づけました。
造語として、この2つをくっつけて作ったという感じですね。 ー お二人で2019年にブランドを立ち上げられていますが、その背景について教えていただけますでしょうか。
池手:僕ら二人は服飾大学の在学中に出会いました。クラスは違ったんですけど、服飾系の大学だったので男子が少なかったというのもあって、少ない男性同士で一緒にご飯を食べたりとか、学生生活を送っていました。 卒業後はそれぞれ異なる進路を選択して、わたしはアパレルの方へ、平澤の方は眼鏡業界に進んだんです。そして2016年頃、わたしが平澤に声をかけ、ブランド発足に至りました。
— 声をかけるというのは、眼鏡をやろう、ブランドを立ち上げようということだったんですか?
池手:そうですね。眼鏡をやろうと思ったきっかけは別にあるんですけど、平澤と一緒にやりたいなということで声をかけたら、彼も同じ気持ちでいてくれたので、一緒にやろうということで始まりました。実は、Yin Yearを立ち上げる背景には、ある一人の女性との出会いがあります。その女性は高齢で、亡き夫が生前使用していた眼鏡を、まるで今も使っているかのように、埃ひとつない状態で丁寧に手入れし続けていました。その眼鏡を夫の"分身"のように扱う姿に触れた時、眼鏡という道具が持つ象徴性と、記憶や感情との結びつきを強く意識するようになったんです。
その後、女性は夫のもとへ旅立たれ、病院の霊安室で泣き崩れる彼女の友人の姿と、その場に居合わせた幼いお孫さんの無垢な表情は深く記憶に刻まれています。もし女性自身が夫の眼鏡をかけていたなら、どのような景色が見えていたのかという問いが、頭から離れませんでした。
この体験を通して、顔の中心に位置し、人の印象を大きく左右する眼鏡という存在に対し、特別な意味を見出すようになりました。誰かを心から想う人にこそ使っていただきたい、そんな眼鏡をつくることを目指して、Yin Yearの構想が具体的に動き出したんです。
— お二人の担当分野について教えてください。
池手:デザインは二人で行っています。それ以外の業務では、大まかに分けると生産関係は平澤が、PRやSNSなどはわたしが担当しています。

上:モデルYY C1-2。「(Why not join us on this journey?)」より。
— 現在、Yin Yearのフレームはセルロイド素材を主に使用されていますが、その理由を教えてください。
平澤:黒にこだわるブランドです。その中で、セルロイドの独特な風味のある黒は、人肌に馴染み、長く使っていただける大事な素材だと思っているからです。また、セルロイド特有の弾性のある装用感や型崩れのしにくさも理由の一つです。
— セルロイドフレームはどちらで製造されているのでしょうか?
平澤:もともとブランドを立ち上げた当初は、千葉の岡村眼鏡製作所さんという職人さん1人でやられている工場に製造をしていただいていました。しかし、数年前に職人の方が他界されてしまったのをきっかけにセルロイド職人を探して、今は福井の鯖江市に移動しました。福井の鯖江市で、いろんな工場を回った中で、すごく信頼できる工場に出会い、その工場に今はお願いしているという形ですね。
— Yin Yearの大きな特徴として、フレームカラーに黒を選ばれている点が挙げられます。その理由についてお聞かせください。
池手:眼鏡は顔の中心に位置するじゃないですか。人物を想起する時に立ち上がるイメージは、人物の容姿と放つ雰囲気が融合して、次第にその人物のアイコンとなり現れると思っているんです。
黒という色は人の顔の上に乗る上で、人物のアイコンの品を損なうことをせずに、曲線や厚みによって、その人の人間性を引き出すことができる色だと僕らは思っているんです。黒という色で、人物のアイコン形成に寄与することができたらいいなと思い、黒という色を選びました。

上:Yin Year「2024」より。モデルYY C1-24を着用。
— セルロイドで言うと、黒はこの一色になるのですか?
平澤:セルロイドで言うと、黒はこの一色です。
— 新しいフレームを作る時に大切にしているものや、インスピレーションについて教えてください。
池手:いろんな要素がもちろんあるとは思うんですが、いろんなカルチャーだったり価値観だったりを自分たちの中で引っ張ってきてデザインを始めるんですが、工場に制作をお願いする際に最終的に考えるのは、その人物のアイコンを引き立てるデザインであるかどうかというところが、僕ら2人の中での判断基準なんです。
眼鏡って、強度に外見を構築するパーツだと思うんですよ。その中で、人物のアイコンを作りたいという思いから始まって、その人の人間性、その人のもともとあるアイコンを尊重しながら、人種や骨格に合わせたフレームではなくて、顔に乗る上で違和感ないほどに印象に残ることのできるアイコンづくりをデザインとして追求しています。
— Yin Yearが制作されているブランド動画には独特の世界観とこだわりを感じます。動画やブランドイメージの制作において、特に大切にされていることは何でしょうか。
池手:主には死生観ですね。生きること、死ぬことの両方について考えて行動するということを、ブランドを通して今一度考えていきたい、探求していきたいという姿勢を僕らは大切にしています。
上:台湾で制作したコンセプチュアルフィルム4「落葉帰根」。
— 特に今年7月頃、台湾の台北に行かれた時に制作された動画が、もうドキュメンタリー動画のようで印象的でした。
池手:そうですね。インタビューを通して、僕らが掲げるコンセプトが異国の地だったり、いろんな年齢層の方々がどう考えているのかということをすり合わせていきたいというか、ブランドとしてこの考え方が皆さんと共有ができるのかどうかというのを探求する旅を行って、台湾ではそういうインタビュー形式で動画を作ってみました。
ー 現地の空気感を感じるような、またしばらく時間が経ってから振り返って観たくなるような、そんな映像でした。 池手:長いですよね。(笑)見る側にもパワーと言うか、体力が必要なので。もちろん向き合う時間も生活していてそんなにないと思うんですよ。眼鏡を通してと言う所だけではなくて、自分たちの死生観を今一度、物への捉え方や家族への捉え方、時間への捉え方を見つめ直すみたいな。たとえば、映画館に行って映画を見るって言うのは強制的に携帯をオフにして2時間映画を見る。映画を集中してみるという空気を、時間をおさせてそこに向き合うことができると思うんですけど。僕らみたいないちブランドができるSNSやYouTubeを通して発信できることってものすごく限られているので。その中で少しでも見てくださる方がいれば、お伝えできるようにしたいなと思っていますね。
ー 出演されている方はお知り合いの方ではなく一般の方ですよね?
池手:一般の方です。事前にお会いできる方を探ろうという話もしていたんですが、結局決まらなくて、現地に行って直接お声がけしました。でも聞く人聞く人、インタビューすればそういうところって出てくるんですよ。死生観って全員が持っているものだと思うんですよね。
インタビューをするということは、その人と向き合うと言うことで。もちろんこちら側の技術も必要ですけど、それによって引き出すことができて。台湾では、動画に載っている方々以外にももちろんインタビューしているんですけど、皆さん考え方を持ってらっしゃる方が多かったので、なんとか形になりました。
— 広島での「追憶」をテーマにしたコンテンポラリーダンスの映像も、また違うアプローチの動画ですよね。
池手:瀬戸内海の対岸が見えるところで、対岸が見えるところって割と他の港にはない景色で。テーマと想いみたいなものをコンテンポラリーダンサーの堀田千明にお伝えさせていただいて、それを表現していただいたと言う感じですね。
ー 追憶というテーマなんですか?
池手:追憶というテーマなんですけど、こちらはまだ未発表の新作のプロモーションビデオの一つでもあって。
新作に関しては「先天的な美」みたいなものを意識していて、人間が持つ美意識って、生まれ育った環境とかDNAレベルで潜在的に眠っている何かがあるんじゃないかと思っているんです。
広島という土地は、一度町としてフラットになっているという記憶の層みたいなものが、他の場所とは大きく違っています。コンテンポラリーダンサーの堀田千明さんも広島出身で、今は世界で活躍されている方なんですけど、広島の場所で撮るということが僕らとして意味があったので、その記憶の層みたいなところを捉えられたらと思って、「追憶」というテーマで表現していただきました。
上:Yin Yearが広島で制作したコンセプチュアルフィルム3「追憶」。広島出身のダンサー、堀田千晶さんがコンテンポラリーダンスを披露。
— 現在はセルロイド素材のみで製作されているとのことですが、今後ほかの素材を使用される予定はありますか?
平澤:今までのインラインで発表しているものは基本セルロイドなんですけど、今年の冬に発売する新作に関してはアセテートを採用してます。また、過去に発表しました限定商材やコラボ商材でアセテートを採用したものもあります。
素材によって表現できるものが違うので、今後アセテートやメタル、それ以外のものでもYin Yearとして、Yin Yearだからできる表現で発表していければと思っております。
— アセテート素材となると、黒の種類は一色になるんですか?
平澤:カラーの種類はすごく沢山あります。黒縁をメインにしているブランドですが、自分たちが思う黒のバリエーションは色々あるので、黒の中でもカラーバリエーションも今後あってもいいのかなと思っていて。素材の色味とか、生地の違いによって、黒の色味が結構違ったりするので、素材によってうまく表現できればなと思っています。
ー アセテートフレームの製造はどちらでされているのでしょうか?
平澤:こちらも鯖江の工場でお願いをしています。また、新潟にも工場があるので、そちらでも一部お願いをしています。
— 今後のブランド活動と将来の展望についてお聞かせください。
池手:昨年末、初めて海外(台湾)で展示イベントをさせていただいたというのも、自分たちの中ですごく活力にもなりましたし、いい経験にもなりました。眼鏡の展示会「RAMBLE」では海外のバイヤーさんやお店の方々が多かったです。
Yin Yearとしては、僕らが考える「あなたの象徴、形見となり、継承されるもの」というコンセプトが、もう少し日本だけではなくて、世界の方々に向けて発信ができたらいいなと思っています。
その中で言うと、台湾でインタビューを行った時に、僕らのコンセプトの中でも、「継承する」ということに関して主にフォーカスしたんですけど、インタビューを行う中で、人が人に何かを継承するということに関して、大事な事は「記憶」というところが関わってくるなというところが改めて見えてきました。
その記憶へのアプローチとして、Yin Yearが何ができるのか、眼鏡として何ができるのかを改めて考えた時に、眼鏡を僕らがデザインしてお渡しして、という中で継承されるような新しい記憶って、その場でパスはできないとは思っていて。何ができるのかとなった時に、この眼鏡を見た時に何かの記憶にアクセスできるようなアイテムであれば、それはYin Yearとしてその人の記憶にアプローチができたという一つの形かな、という思いで今回カプセルコレクションという、数量限定ではあるんですけど、Yin Yearとして眼鏡を作りました。
先ほどの、新作の話とも繋がるんですけど、何かを見て美しいと思うとか、思い出すとかという意味で言うと、夕日というものは、ちょっとチープな言葉ですけどエモーショナルな気持ちになって、「誰と見た」とか、「どこで見た」とか、辛い思い出や、良い思い出を思い出せる一つのきっかけになると思うんです。そのようなアプローチを今回やってみましたので、皆さんに見ていただいて体験していただけたら嬉しいです。

上:Yin YearのカプセルコレクションモデルYY K1-25。テンプルに日が沈む景色を連想させるアセテートを採用。数量限定モデル。現在オーダー受付中、2025年11月発売予定。
また、ブランドを始めて5年ということもあって、Yin Yearのフレームのアフターケアやメンテナンスなどを月に一度など、今後やっていきたいと思っています。そのようなイベントに来ていただいても、実際のフレームをご体験いただけます。
東京、青森、広島、長野、そして台湾と、日本国内から海外まで多岐にわたり活動を展開するYin Year。今年4月と10月にはメガネの展示会「Ramble」(ランブル)に出展し、10月14日から3日間開催された「Ramble 2025」では日本のアパレルブランド「Name.」とのコラボモデルを発表した。カプセルコレクションプロジェクト、新作モデル、イベントなど、今後の活動にますます期待が高まる。
For the article in English, press HERE
Yin Year
あなたの象徴、形見となり、継承されるもの 。
アイウェアブランド Yin Year(インイヤー)が求めるのは、
眼鏡という“道具”がもつ可能性を
極限まで追求することにより人間性を照らし、
単なる飾りではなくあなたの一部となることで、
眼鏡をかけていない自分をも超えるアイデンティティを与えること。
ブランドネームである Yin Year とは、
それぞれ Yin=影、in year=年を重ねるという意をもち、
ブランドの礎ともいえるこのふたつの言葉を組み合わせたもの。
「まるで影のようにあなたに寄り添い、ともに年を重ねてほしい」
という想いを込めて名づけました。
オフィシャルホームページ:https://www.yinyear.com
INSTAGRAM:@yinyear
CULTURE EYEスタッフあとがき
今年春の眼鏡の展示会「RAMBLE」で初めてお会いし、お話をさせていただいたYin Yearの池手さんと平澤さん。素材はセルロイド、カラーは黒を使用していると聞いたとき、その個性的なアプローチに驚き、引き込まれました。
Yin YearのSNSやホームページに掲載されているブランド画像や動画を拝見して、ブランドの価値観や探究心、コンセプトは一体どこから湧いてくるのかと興味を惹かれました。
8月に東京・清澄白河のLIFE SOUVENIR STORE「MONDO」で開催されたポップアップイベントに参加させていただき、日本製のアパレルやジュエリー、打ちっぱなしのコンクリートとナチュラルウッドの壁に囲まれた空間でフレームを拝見した時、Yin Yearのブランドアイデンティティをさらに感じる体験となりました。
今回、大変貴重なお時間をいただき、インタビューをさせていただき、誠にありがとうございました。