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Pitotデザイナー、渡部 奨之さんインタビュー


Pitotの秋の新作、SCHLUMBERGERA Iのビジュアルイメージ。シャコバサボテンがフレームのモチーフとなっている。

2023年に独自の世界観をもって立ち上げられた「Pitot(ピトー)」は、ディレクター兼デザイナー、渡部奨之さんによるもの。

今回は、渡部さんが眼鏡のデザインを始めたきっかけや、その創作におけるインスピレーションの源について、さらに2024年秋の新作フレームやブランドの今後の展望について、貴重なお話をうかがった。(上:Pitotの秋の新作、SCHLUMBERGERA Iのビジュアルイメージ。シャコバサボテンがフレームのモチーフとなっている。)

 

この度はインタビューにご協力をいただき、誠にありがとうございます。まず Pitot というブランド名は、どのようなイメージや想いを込めて名付けられましたか? 


Pitotは風など流体の速度を計測する"Pitot Tube"ピトー管に由来していて、ピトー管は飛行機の速度計測などに用いられています。流行り廃りをはじめとして、時代や情勢は常に変化していくものなので、これらの流れを読み取っていけるように、との想いで名付けました。


渡部さんは Pitot を立ち上げる以前、フラワーアートの制作に携われていたとのことですが、植物を題材としたクリエイションの魅力や、渡部さんがフラワーアートに惹かれた理由などについて教えてください。


きっかけは、もともとアートやデザイン、工業デザインに興味があり、その中でフラワーアートという仕事を知り強く惹かれたのが始まりでした。

僕が携わっていたフラワーアートでは、生きた本物のお花をあつかっていました。お花を使うってことは切り花にするわけで。切り花にするってことは人の手でお花を切って使うわけなんですね。その行為自体は、お花の寿命を縮めてしまうんですけど、短い命の間にもお花は水をあげることでどんどん成長していくんです。

そこの変化だったり、毎日表情が変わっていく様が美しくて。その力強さだったり儚さとかがフラワーアートの魅力かなと思います。アートとしては数少ない生きている作品とも言えます。

南米原産の熱帯植物であるヘリコニア・ロストラータの幾重にも連なった特異的な形状や、それらがもたらす魅惑の存在感から着想を得て描き起こされた、モデルROSTRATA。

上:南米原産の熱帯植物であるヘリコニア・ロストラータの幾重にも連なった特異的な形状や、それらがもたらす魅惑の存在感から着想を得て描き起こされた、モデルROSTRATA。


ブランドPitotのモデル名が鉄炮百合(テッポウユリ)やヒヤシンスの二名法による学名から命名されていたり、プロダクト画像にも植物が使用されています。フラワーアートでの経験はフレームデザインに影響していると感じますか?  


かなり影響していますね。植物を組み合わせる際には、まず植物のつくりだったり成り立ちを理解することがとても大切です。たとえば、お花の成長スピードなども、それぞれのお花によって違います。どのお花を組み合わせると上手くいくかは植物の特性を深く知ることで見えてきます。


お花を学んでいくと、それ単体でもつくりとか凄い美しかったりするんですね。なので、フレームデザインにもそのような構造だったりを取り入れることで、フレーム自体に目を惹く形や要素を加えることを意識しています。

Pitotのパッケージデザイン。ブラントカードには各モデルの由来となった植物のイラストが描かれている。

上:Pitotのパッケージデザイン。ブラントカードには各モデルの由来となった植物のイラストが描かれている。


デザインをされている時はどのようなことを大切にされていますか?  


一番は独創的でありながらも、まとまりのあるアイウェアを目指しています。眼鏡である以上ある程度制約はありますが、しようと思えば際限なく奇抜なデザインはすることができるかと思います。ただ、Pitotが求めるのはそこではなく、構造であったり、ちょっとしたシェイプであったり、そういったものを新しく組み合わせていって最終的にはアイウェアとしてまとまる形になればいいなと思っています。


デザインのインスピレーション源は何ですか?  


植物はもちろんそうですが、それに限らず美しいと思えるすべての事象を対象にしています。

長い歴史の中で培われてきた伝統や文化があって、そういったものの背景や、いかに長く続いてきたのかなどを学びながら要所要所落とし込んで取り入れていっています。


2024年春の展示会では、庭師や萬古焼職人など、さまざまな分野の日本の職人の方を取り上げたブックレットを制作されていました。

職人やものづくりにこだわりを持たれていると感じます。眼鏡の産地、福井県に移住し、デザインをされているとのことですが、福井県鯖江市の眼鏡作りとの出会いや、そこで Pitotのフレームを製作する理由についてお聞かせください。


業種に関わらず、いわゆる職人さんってその仕事を長年続けているわけで、その人独自の感覚や感性を持ち合わせていると思っていて、その精神性や忍耐力をとても尊敬しています。


元々眼鏡のデザインが好きで、漠然と自分のブランドを立ち上げたいと思った時に業界未経験だった僕は、まずは眼鏡の産地に飛び込んで、業界のことはもちろん、近くで職人の志向性を学ぶべきだとの想いで鯖江に移住しました。


とても単純な考えだったかと思いますが、やはり現地でないと分からないこともあったので、決断としては間違っていなかったようです。フレーム製造は、鯖江の製作所にご協力頂いているのですが、実際に仕上がりを直接見て品質に惚れ込んだというのがやっぱり一番です。あとは、製作所と近いと確認であったり、やり取りがスムーズなのも大きいです。

Pitotのフォトグラフィックコレクション「THE SHOKUNIN」より。THE CARPENTERシリーズ。フレームはモデル、HYACINTHUS III。

上:Pitotのフォトグラフィックコレクション「THE SHOKUNIN」より。THE CARPENTERシリーズ。フレームはモデル、HYACINTHUS III。

Pitotのフォトグラフィックコレクション「THE SHOKUNIN」より。THE GARDENERシリーズ。

上:Pitotのフォトグラフィックコレクション「THE SHOKUNIN」より。THE GARDENERシリーズ。


Pitotのインスタグラムなどに見られるビジュアルイメージがとても美しく印象的です。こうしたビジュアルイメージの制作には、渡部さんご自身が関わっていらっしゃるのでしょうか?


はい、ディレクションは基本的に僕1人でやっています。

インスピレーションの話ともつながりますが、長い歴史の中で培われてきた伝統や文化だったりを、現代の技術や表現方法を用いてビジュアルイメージとして採用しています。

2024年秋のビジュアルイメージ。新モデルSCHLUMBERGERA IIを着用。

上:2024年秋のビジュアルイメージ。新モデルSCHLUMBERGERA IIを着用。


Pitotのブランドコンセプトは、『アイウェアという枠組みにおいて”魅せる”に重きを置き、洗練された唯一無二の造形を生み出す。』というものですが、この”魅せる”をさらに深め、今後どのような眼鏡を作り、どのような世界観を表現していきたいですか?


ぱっと見た瞬間に心を動かされるものーーそれは眼鏡に限らず、僕が最初に惹かれた花もそうですが、そういった「動かされる感覚」ってすごい素敵なことだなと思っていて。僕は今こうやってアイウェアブランドをしている以上、その感覚をアイウェアで魅せれるのが理想だと考えています。ただ、その手助けとして全体的なコンセプトであったり世界観、そういった所も加味して魅せれるようなものが作れたら良いなと思っています。


それで、ビジュアルの画像なども拘られたりされているのですね。


はい、そうですね。ちょっと「なんだこれは?」とか、思われるようなものも作ってきましたし、今後もそういったヴィジュアルに挑戦していくつもりです。それって、もちろんアイウェアなんですけど、アイウェアにとらわれず、そういった部分は表現の一つとして受け取っていただけたら嬉しいです。


あとは、異業種であったり文化的要素を取り入れて、Pitotなりの解釈でアイウェアと掛け合わせた独自の世界観を表現していきたいですね。

Pitotのビジュアルイメージ。RGBシリーズよりGreen。

上:Pitotのビジュアルイメージ。RGBシリーズよりGreen。


2024年秋の新作についてお聞かせください。


今回の新作は、Pitot初のメタルフレームになります。特徴的なデザインとして、フロント部分にワタリとよばれるバーを前後に2本配置しました。この構造により、正面から見たときと、角度をつけて見たときで表情が異なるようになっていて、重厚感を演出しています。


また、テンプルの開閉構造にもこだわり、少し飛び出したようなパーツなどでエッジを表現しています。デザインのモチーフは、シャコバサボテンという植物でギザギザした独特の形状を持つ茎が特徴的ですが、その形をそのまま再現するのではなく、シャコバサボテンが持つ「エッジの効いた強さ」や硬質な質感といった雰囲気をフレーム全体に取り入れました。メタルフレームを選んだのも、この植物が持つ硬さを表現するためです。

新作モデルSCHLUMBERGERA I。シャコバサボテンがフレームのモチーフとなっている。

上:新作モデルSCHLUMBERGERA I。シャコバサボテンがフレームのモチーフとなっている。


今後のイベントの予定やブランドの展望について教えてください。


これまではほとんどしてこなかったのですが、POP UPなどのイベントを積極的に開催していけたらと思っています。海外展開も同時並行で進めていって、Pitotの世界観をより拡げていきます。


この度は、貴重なお話をありがとうございました。

Pitotのビジュアルイメージ。Teeny.Tiny.GuysシリーズよりGuys Who Discover。フレームは日本原産である鉄炮百合(テッポウユリ)の清廉で気高さを備えた佇まいから着想を得て描き起こされた、モデルLONGIFLORUM。

上:Pitotのビジュアルイメージ。Teeny.Tiny.GuysシリーズよりGuys Who Discover。フレームは日本原産である鉄炮百合(テッポウユリ)の清廉で気高さを備えた佇まいから着想を得て描き起こされた、モデルLONGIFLORUM。


Pitot

ピトーは日々変わりゆく時の中、いかなる状況であっても流れを正確に汲み取り、時代を掴むアイウェア。単なる流行り廃りに捉われず、アイウェアという枠組みにおいて”魅せる”に重きを置き、洗練された唯一無二の造形を生み出す。世界屈指の技術力を誇る福井・鯖江の職人によって数多もの工程の1つ1つに想いが込められ、組み上げられる1本のフレーム。確かな技術と最適な素材からなるアイウェアを実際に肌で触れ、身に纏うことで初めて見える景色がある。

 

ホームページ:https://www.pitot-eyewear.com

インスタグラム:@pitot_official

 

EYEWEAR CULTURE スタッフあとがき

渡部奨之さんと初めてお話をさせていただいたのは、2024年春の展示会でした。落ち着いた雰囲気の中にも、デザインや表現への強い情熱を感じさせる方です。細部にまでこだわり抜かれたデザインや、鯖江での手づくりから生まれる高い品質、そして洗練されたビジュアルイメージの背景にある世界観について伺うことができ、とても貴重な時間となりました。

春に発行された「PITOT PHOTOGRAPHIC COLLECTIONS」の冊子には、5つの分野の日本の職人と眼鏡の美しい写真が収められ、渡部さんの出身地である三重県の伝統工芸である「萬古焼」の職人の方が捉えられている場面は、渡部さんのアイデンティティと創造力の原点を感じさせる作品と感じました。秋の展示会では初のフルメタルフレームを発表したPitot。今後の新作も目が離せません。

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